お客様の顔が見える林業のかたち

株式会社東京チェンソーズ

青木 亮輔

東京にも林業があります。木を育てている森があり、山があります。東京都檜原村の山の中、築400年の一軒の古民家、入り口には丸太看板に書かれた「TOKYO CHAINSAWS」の文字。ここは東京で林業を営む会社、東京チェンソーズの事務所です。林業とは単に木を伐ることだけが仕事ではありません。東京の森を守り、育てるという役目を担っていました。

東京チェンソーズの主な仕事は林業です。山のスギやヒノキ、あるいは広葉樹などを、価値のある良質な「木材」に育てて、森を豊かに仕立てていきます。こうやって森の手入れを行うことで、木々が大地に根を張る力が強くなり、土砂崩れを防ぎます。また森林に雨が降ると、その雨水は地中に浸透して徐々に河川へと流れます。この働きは急激な河川の増水を防ぐとともに、渇水を緩和する効果もあります。地中を染み透る過程で水は浄化され、ミネラルを含んだ天然水にもなります。全国の林業家は、森林環境を健全に保つという大きな役割を担っていて、わたしたちは東京の森でその仕事を行っているんです。

 

1本の木を育てるという仕事を野菜に例えるならば、種を植えてから収穫するまでに50年かかることになります。木を育てる過程には、苗木を植え、下草を刈り、下枝を切り落とし、間伐・主伐など、様々な作業があります。2015年から東京チェンソーズが始めた「東京美林倶楽部」という取り組みでは、お客さんと一緒になって木を育てる、今までない方法で東京の森を少しづつ変えている。

「補助金のみに頼らない、自立した産業としての林業の確立」という目標を掲げて、色々と試行錯誤して考えたのが「東京美林倶楽部」なんです。一人3本の苗木(花粉の少ないスギやヒノキ)を植えて育てるという、東京に美しい森をつくるためのプロジェクトです。まず檜原村にある東京チェンソーズの社有林に3本の苗木を植え、25年目以降に2回行われる間伐で、育てた木のうち2本を伐採します。伐った木は家具や玩具、ご希望の用途に加工します。そして大切な人への贈り物やご自身の思い出の品としてお使いいただけます。お客様に大切に育てられた残りの1本の木は、未来の世代へ続く美しい森林となっていきます。

 

自然の恩恵を利用した産業として、農業・漁業・林業は一次産業と呼ばれています。それぞれの産物は野菜・鮮魚・木材として一般消費者の元に届くのですが、その多くは複雑な流通によって、生産者の顔が見えないのです。林家では、何十年も育てた木々が、どこで、どのように使われているか分からないことは当たり前だという。

「伐採」と「搬出」という作業があります。山から木を伐り出して木材として使える状態にする作業です。業界の一般的な習わしだと、搬出先は原木市場ですが、市場の先でどのように使われるのかということはなかなか知りえません。林業を始めてから、主な収益は伐採事業だったのですが、これでいいのだろうかという想いはずっとありました。現在、東京チェンソーズでは市場には搬出しておらず、出荷先は2パターンあります。その一つがTOKYO WOODの家、もう一つはあきる野市のあきがわ木工連。ここでは保育施設の家具などに使っていただいています。どちらもお客様の顔が見えて、どのように使われるのかが見える仕組みになっているんです。実際にお客様とお会いすることで、スタッフもより丁寧に作業する事を意識するようになりました。TOKYO WOODで使う木材もバスツアーで来られたお客様のことを思い浮かべ丁寧に伐採しております。東京チェンソーズは他の林業家に比べるとコンパクトにやっているので、このように体系化できている部分もあります。

 

TOKYO WOODの核となる、素材の生産。育林、伐採、搬出という工程の中には、価値のある木として適正な価格で買ってもらえるよう、一つ一つ丁寧に作業が行われているという。全国の日本林業にはその地域によって様々な伝統と技術があります。山や木に対する東京チェンソーズのこだわりを伺ってみました。

山に入るための作業道を作る際には、環境に配慮して山を必要以上に削り取らないようにしています。また使えない間伐材を路盤に敷いて道を補強するなど、山にやさしい道づくりを行っています。育てた木がTOKYO WOODの家となり、または保育施設の家具や玩具として使われることを考えると、当然のことなんですが、木を大事に扱わないといけませんよね。できるだけダメージを与えないように、伐採する際には木が谷側に倒れないように、山側に倒します。谷側に倒してしまうと、地面に叩きつけられて損傷が大きくなってしまうんです。その反面、山側には倒すことでダメージの軽減に繋がるんです。

 

必要としているお客さんがいることで、農家では収穫、漁業では漁獲という作業が行われます。青木さんは林業も同じように、木造住宅や木製家具を必要とするお客さんがいて伐採・出材という作業が行われるような流れを作っていきたいという。「TOKYO WOOD」、「東京美林倶楽部」など、お客さんと一緒になって、次の世代へと豊かな森林を繋げていく輪は少しづつ広がっています。

林を生業にするという林業の仕事は多岐に渡ります。わたしたちの今やっている仕事の先にお客様が見えています。そのためにいい木を育てなくてはいけません。TOKYO WOODは産地証明ではなく、葉枯らし乾燥、天然乾燥、強度試験など、データ的に品質が高いことを証明する「見える化」に取り組んでいます。今後も魅力的な家づくりを進め、たくさんのお客様に支持されることで、家づくりに携わるそれぞれの現場、その先の東京の山と森が元気になります。そのためにも東京チェンソーズとしては、もっとスキルアップしていかなければいけません。東京で使われている外材を、少しづつ東京の木に変えていくという需要と可能性は大いにあると思います。林業と東京の未来は明るくしていきたいですね。

 

 

株式会社東京チェンソーズ 代表取締役 青木 亮輔(あおき りょうすけ)

1976年大阪生まれ。1999年東京農業大学農学部林学科卒業。学生時代は探検部に所属、モンゴルの洞窟調査やチベットでメコン川の源流航下などの活動に熱中。卒業後は1年間の会社勤めを経て、2001年に林業の世界へ転身。2006年に所属していた森林組合から仲間と共に檜原村で東京チェンソーズを立ち上げる。林業だけでなく、ツリークライミング体験会などの森林に関わる体験型イベント、ホームページ、SNSなどの情報発信にも力を入れている。2015年4月から「東京美林倶楽部」がスタート。TOKYO WOODのバスツアーでは「東京美林倶楽部」の森を見学しています。

檜原村林業研究グループ「やまびこ会」役員
ツリークライミング®ジャパン公認ファシリテーター
日本グッドトイ委員会公認おもちゃコンサルタント

URL:http://tokyo-chainsaws.jp/