土砂災害を防ぐ森づくり

土砂災害を防ぐ森づくり

田中林業株式会社

田中 惣一

皆様、こんにちは。
TOKYO WOOD WORKER’S 田中林業の田中です。

檜原村ではトンボも飛び始めていて、夏も終わりに近づいてきたという感じが日に日に増している今日この頃です。さて、今年は梅雨明け以降すっきりしない日が多く、現場の調整にとても気を遣った夏になりました。

この夏、大分県の日田地方では、線状降雨帯による集中豪雨で甚大な被害が出たことは皆さんもご存知だと思います。日田地方というのは国内でも静岡県の天竜、奈良県の吉野と並ぶ有数な林業地域です。「日田スギ」といえば古くからブランド材としての地位を確立しています。私の知人も多く、災害後は連絡の取れない方もいたので非常に心配をしていたのですが、幸い人命や自宅に被害が出た方はいませんでした。ただ、林道や沢沿いの山林の崩落は多数あったとのことで、皆さん心を痛めておられました。

土砂災害を防ぐ森づくり

このような土砂災害が起こると必ず話題に上がるのが「人工林悪」説というものです。これについては賛否があるので確定的な物言いはしたくないのですが、田中林業として代々森と共に歩んできた一族の人間としての見解を申し上げたいと思います。

今回もテレビで橋の橋脚に引っかかったり、土砂にまみれている針葉樹の映像が盛んに出ていました。確かにあれだけを見ると「人工林はダメだ!」となるのも分かる気がします。ではなぜ、針葉樹が多く流失し被害を大きくしたのでしょうか。

土砂災害を防ぐ森づくり

我々林業家は山に植林をするとき、適したところへ適した樹種を植林するように心がけています。昔から「オネマツ、サワスギ、ナカヒノキ」と言われていて、尾根のように土が少なく乾いている場所には松を、沢筋や窪地のように土が深く、水分も多いところには杉を、その中間のところに檜を植えてきました。これが私たちの山の人工林のつくりです。

土砂災害を防ぐ森づくり

ただ必然的に今回のような災害の影響を最も受けやすいところが実は杉の適地なのです。
「広葉樹は根を張るから土を抑えるが、針葉樹は根を張らないから土を抑えない。」ともよく言われますが、これも誤解です。広葉樹は横に根を張り、針葉樹(とくに杉)は縦に根を張るのです。弊社でも作業道を開設する際に針葉樹、広葉樹問わず、抜根する機会が多々あるのですが、広葉樹はバックホーの爪をかけて動かせば簡単に抜根できます。一方、針葉樹は周りを深く掘ってからでないと抜けないので非常に時間がかかります。土を抑えることを第一に考えるならば、横に根を張る広葉樹と縦に根を張る針葉樹を併せた針広混交林に誘導していくことが一番なのです。

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また、今回の崩壊は木々が根の張る表層のさらに下の地盤ごと崩壊する「深層崩壊」がほとんどだと言われています。こうなってしまうと表層に何が生えていても崩れるときは崩れてしまいます。「深層崩壊」によって流失した土砂が、沢筋を適地として植えられた針葉樹を巻き込み、下流域に被害をもたらしたということが今回の要因の一つではないかと思います。

東京の山、多摩地域においても決して他人事ではなく、今後このような災害が起こる可能性があると感じています。林業家としては災害に強い森づくりを目指すのはもちろんですが、過去経験したことのないような雨量を降らす異常気象については、山と共に暮らしている日本中の人たちも一緒に考えなければいけない大きな課題になったことを実感しました。今回の記事を読んでいただき、まずはこうした課題について少しでも関心を持っていただけたら幸いです。

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