こだわり抜いた製品づくり

有限会社中嶋材木店

中嶋 博幸

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多摩の山には良質の資源がたくさんあるにも関わらず、輸入材の普及が進んでいる。そのため都内では数少なくなってしまった地場産材の製材工場。そんな中、東京都あきる野市で製材業として多摩産材の製材を担っている(有)中嶋材木店。代表 中嶋博幸さんは多摩の木に誇りを持ち、その利用発展・普及活動に尽力を続けている。

多摩産材は東京の多摩西部、青梅、日の出、八王子、あきる野、檜原村などの山間部から生産された木材で、主に戦後に植林された杉と檜だね。多摩の山林資源の現状としては、伐採量よりも育っている量のほうが4〜5倍くらいは多くなってます。世界的に見れば森林資源が減り続けているんで環境破壊につながってますが、日本においては戦後に植林したものが木材自給率の低下によって伐り出されなくなって、むしろ逆に弊害が生まている状況。このままだと多摩の山は荒廃していって、 樹齢50年生以上の杉は花粉の飛散も激しくなってしまうね。そのため我々はより有効にこの多摩産材を利用し、循環させることに努めてきた訳です。

 

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東京という大消費地にも関わらず、多摩産材の利用はまだまだ微々たるもの。実際に理想とする供給量のおよそ2〜3割なのが現状である。2012年より始まった「東京の木で家を建てる」というTOKYO WOODの取り組みでは、多摩産材をどこよりも多く供給・消費するまでに至った。その経緯の中で、製材業としての立場から困難な道のりもあったという。

TOKYO WOODが始まるきっかけとなったのが小嶋工務店さんからの連絡で、「東京の無垢の木を使って家づくりをしたい。」という話を頂いたんですよ。とはいえ、すぐに家づくりが始まることはありませんでしたね。その時に壁となったのが品質検査。「消費者が安心して無垢の木を使えるよう、高品質であることを示したい」と言われ、強度や含水率を示す必要が求められました。当時は高価なグレーディングマシン(品質検査機)を導入している木材組合は東京にはなく、そもそも出来ないという状態だったんですよ。ましてや品質検査の結果として材木が不合格になってしまったら構造材として使えない。こちらの立場としては品質検査はやりたくないという意向だったね。

 

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「不合格になった材木も含めて全材木を買い上げます!」。(株)小嶋工務店 小嶋社長の言葉でした。その言葉に中嶋さんも合意。すぐに東京都に対して「消費者に高品質の木材を届けるため、東京の林業を守るために」とマシンを手に入れるための補助を求めました。その想いは東京都にも響き、グレーディングマシン導入が実現したという。

マシンの導入をきっかけに、TOKYO  WOODの家づくりがスタートすることになり、多摩産材の供給量も着実に伸びていったね。そんな中でお客さんから「なんでうちの檜は香りがしないんですか?」という質問が出てきました。理由を尋ねられ、「それは高温乾燥だからですよ。」と答えたところ「それ以外の方法はないんですかね?」という話になりました。そこで小嶋工務店の建設部長と他社の工法を調べたり研究を続け、たどり着いた方法が天然乾燥でした。これがまた大きな壁でしたね。通常の人工乾燥であれば約一週間の工程を二、三ヶ月ただ並べて待つことしかできない。切った木をすぐに売れないということは当然、我々製材業者の収入にも影響が出てきますからね。

 

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天然乾燥では値段も高くなるし、置き場もない。諦めかけようとしていた時に名乗りをあげたのが中嶋さんたった。『俺がやる!』という一言から、TOKYO WOODの製品づくりは大きく変わっていった。製造工程を変えたことで、どのような変化があったのか、製品づくりにおける苦労話を聞いてみた。

天然乾燥については困難だけども、克服してこそ「付加価値」が生まれると思って試行錯誤しながらやってみたんですよ。最初は天然乾燥+人工乾燥で試してみたり、天然乾燥の弱点である割れや膨らみを、「一面背割れ」から「四面背割れ」にする事で解消する事が出来ました。ただ含水率にバラつきが生じたり、製造工程に時間が掛かる点において、生産性と安定供給を実現することは口で言うほど簡単ではなかったね。今でも試行錯誤しながら、こだわり抜いた製品づくりに励んでますが、ただ今となっては苦労よりも感謝することの方が多いかな。天然乾燥によって製造工程が変わり、材木のロスがなくなったからね。ヒビ割れて使えなくなった柱もないので、我々としては助かってます。

 

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切り頃を迎えている東京の山に眠っている多摩産材。それは製材業の木材加工による技術とこだわりの製法によって最高品質TOKYO WOODに生まれ変わることができる。製品づくりに対する飽くなき情熱、こだわりをお客様にしっかりと伝えていきたいという。

製材業のほとんどは発注に対して製品を納めるだけの仕事だけど、TOKYO WOODはバスツアーでお客様と顔を合わせる機会があって、そこで家づくりに対するいろんな想いを聞くと、製品づくりに対する姿勢も変わります。あとはどこよりも東京の木にこだわってます。当初は柱だけをTOKYO  WOODとして使っていましたが、現在では、床材、階段材、枠材、建具、胴縁等としてもふんだんに東京の木を使うようになりました。そのため木材も無駄なく余すことなく使用しているので、本当に木を大切に使っています。我々のような製材業では、原木を買っても売れるまでに時間がかかります。もっとTOKYO WOODが広がることで、安定した注文をいただけることが私たちの願いです。

 

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有限会社中嶋材木店 代表取締役 中嶋 博幸(なかじま ひろゆき)

 

1966年生まれ。高校卒業後、家業である中嶋材木店を継承。代表取締役に就任。TOKYO WOOD趣味は地元、秋川での鮎釣り。中嶋材木店は製材工場として東京都内唯一JASの認定を受けている。

(一社)TOKYO WOOD普及協会 伝統工法継承委員会 理事

URL:http://www.gws.ne.jp/kigokoro/