東京の森を身近に感じられる繋がり

田中林業株式会社

田中 惣一

 

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東京都の最西端に位置する檜原村で林業を営む田中林業(株)。江戸時代から続く林業家であり、代々受け継いできたその森を守っているのが15代目の田中惣一さんだ。2012年には国際的な森林認証林制度、FSC®を取得。日本の林業が衰退する中で、「東京の森でFSCを取得する」という新たな試みによって、林業の新たな可能性に繋がることを期待していた。

「FSC®の認証制度というのものは、純粋に森林の質だけを見ているのではなくて、林業経営全般の視点で審査されるものなんです。林業は結局のところ今まで客観的に判断する基準やシステムが何も無かったんですよ。ですからこの認証を継続することで、ある程度一定の管理レベルにあるってことを客観的に評価してもらえると思ったんです。それまでは「何代にも渡って続けてきました。」みたいなことを言うだけでしたからね。林業に求められている役割も今後は素材生産主体から森林の総合的な管理に変わっていくんだろうと感じていて、FSC®を早い段階で取得しておくということは必要なことだと確信していたんです。」

 

森林の品質管理にも注力をしており、このような森の木から家を建てられるということは贅沢なことである。しかし林業家という視点から、家づくりに携わり木材を供給することの難しさや課題もあるようだ。素材生産者としてTOKYO WOODの家に使用される高品質な木材を生み出す秘訣はなんなのだろうか?

「うちでは補助金をもらう目的のために木を切ることはしていません。間伐する際の指標にしているのは林床の状態ですね。森の中の地際にどれだけ草が生えているのかを見ます。木が成長して、枝や葉が成長していけば森は暗くなるので、そうすると陽の光を浴びなくなった地面に生えている木以外の草木が減ってくるんです。草がなくなりかけてると思ったら、もう間伐の時期なんだな…という判断で作業を進めます。こうした作業を続けた結果、うちの森に来られる方は「森の明るさに驚きました。」なんていう言葉もいただきますね。今後はTOKYO WOODバスツアーでお客さんにも来てもらいたいですね。」

 

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TOKYOWOODが始まるもっと昔の話。田中さんの山の木を使って一軒の家を建てたことがあった。林業の仕事では、自分たちが育てた木が、どこで、誰が、どのように使っているのかということは分からないし見えない。そのため、お客様がどのような想いで「木の家」を建てているのかを聞けたことはとても新鮮で不思議な感覚だったという。

「あるご縁でうちの山に仕事で来て下さっていた方が、うちの森を見て「ここの木で家を建てたい。どうせ家を建てるなら、こういうところまで足を運んで選びたい。」と言って下さったんですよ。その時は立木の状態から伐採、搬出の様子も見ていただきました。そのご家族にはまだ小さいお子さんがいて、現場の様子も見学してもらって、「これが家になるんだよ」ということを伝えましたね。今はもう高校生くらいになったのかなぁ。こちらが思っている以上に、山や森に対する想い、その木が自分の家になるという想いが強くて、そこに喜びを感じてくれたことが新鮮でした。」こうした繋がりをTOKYO WOODの取り組みで再び感じることができるのは、これは本当に嬉しいことです。

 

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しかしその反面で普段の仕事ではない分、苦労したことも多かったという。山から木材が消費者の元へ届くまでには長い道のりがある。田中さんはこの経験で、この道のりの工程を自分たちだけでこなすのは困難であると実感した。そこで現在のTOKYO WOODの仕組みについて話してくれた。

「TOKYO WOODのように、林業家、製材業、プレカット、工務店が一つのチームとなり、それぞれの専門分野のプロが一つ一つの工程を繋ぎ、お客様の元に届ける。このように地域材を、その地域で使うという方法は山に還元するための理想的な形ですね。それぞれが担っている役割をバトンタッチしながら、消費者まで繋ぐ道のりは後世の代までしっかり繋いでいきたいです。家づくりを木材から選び、考える消費者もいるんですね。森に訪れて自分たちが住む家となる木を見ることができる仕組みはTOKYO WOODの魅力の一つだと思います。」

 

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TOKYO WOODという素材を生み出す田中さん。革新的な目線で従来の林業の仕事を継続するだけでなく、未来の林業を見据えた意識を持って様々な取り組みに積極的に参画しています。森を守るということは、次の世代に引き継いでいくことが大切だという。

「林業家としてTOKYO WOODに求められている役割・課題は、いかに安定して材を供給していく体制を構築していくのかという部分です。将来的にはうちの山だけでなく、他の山主さんとも連携して、この部分を担っていきたいです。よく工務店の方が「建ててからがお付き合いの始まり」と言いますが、我々のような林業家も末長いお付き合いをしていくものだと考えています。今まで繋がりを持てなかった方々と、こうしてTOKYO WOODを通じて繋がれる。そこで出会ったお客様との関係を大切にしていきたいです。そんな東京の森を身近に感じられる繋がりを、林業を営む我々は築いていきます。お子さんがいれば、ぜひ山まで遊びに来て欲しいですね。そして東京の森のことを次の世代に伝えていって欲しいですね。」

 

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田中林業株式会社 代表取締役 田中 惣一(たなか そういち)

江戸時代の初期から東京都・檜原村において林業を家業としてきた田中家の長男として1978年に生まれる。2000年東京農業大学農学部林学科卒業後、2001年に家業を継ぐべく林業の道へ入る。2012年にそれまで個人事業であった田中林業を法人化し、田中林業株式会社を設立。「人と森と地域をつなぐ」をモットーに森の総合的な価値で収益を上げていく「総合的森林業」を目指して日々奮闘している。

 

(一社)日本林業経営者協会青年部副会長
(一社)日本薪協会副会長

URL:http://tanaka-forestry.co.jp/